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白い球体になりたい

音楽好きだし、ゲイだし、世界が終わらないことも知ってる

明日があるさ

斜め向かいのデスクの上司が亡くなったときいたのは昨日の朝だった。前々から体調が芳しくなく、 長期入院も1年に差し掛かってしまおうとした矢先の訃報。業務はほぼ通常通りの進行だったけれど、明日お通夜がありますだとか、明後日は告別式で、などど膨大な非日常がねじ込まれ、1日のうちにYahooJapanを眺める比率が少し増えた。パソコンのデスクから少し視線をやると、彼がこの間まで働いていたデスクのカレンダーや、ちょっとした文房具や、タオルとか隠し持ってた飴とか、すべてが彼がそこにいたことを静かに主張し続けていた。

 

覇気のないお経が、線香臭いホールに響き渡る。上司の顔はまるで今にも目が覚めてきそうな表情の、しかし確実に生気を失った色合いの面影だった。普段のんびりした顔してデスクに座るお偉いさんも、目を真っ赤にして泣いていた。亡くなってしまった彼は、職場では若い方だったし、私自身元気な姿しか覚えがなく、なぜ自分がこのような場に対面しているのかが最後まで理解できないまま、お通夜という儀式が気づけば終わっていた。

 

ご無沙汰してます、元気ですか、お変わりなく、仕事はどうですか、バカな新人が入ったんですよ、不景気でね、どうなるかわかりませんよ。

 

自宅近所のバス停から、線香臭いスーツのまま坂を登る。登る途中で、自転車の気配。ライトに私が照らされる前に、口笛が聞こえてきた。どこかできいたことのあるメロディがどんどん大きくなり、私を追い抜かしていくスローモーションで、私はその曲を特定した。思わず私も同じメロディを口ずさむ。

「明日がある、明日がある、明日があるさ

向こうは自転車なのにイヤホンをして爆音で音楽を聴いているようだ。彼を見送り、私は家路を急いだ。