白い球体になりたい

音楽好きだし、ゲイだし、世界が終わらないことも知ってる

まくら

 「モノと目があう」という感覚。

 

不用品回収業者がやってきて、一人暮らしで溜め込んだ荷物を片っ端から片付けてもらった。

業者さんが部屋に最後まで残った要らないものを片っ端から片付けていく中、僕も要らないものをまとめる作業をしていた。やってきた業者さんはかっこいい人だったので、なんとなくチラチラ見てはいたのかもしれない。ふっと玄関先に目をやると、業者さんが雑に引っ張り上げて持ち上がっている元彼のまくらと、目があった。

 

人と距離を置きがちな私は、一人暮らしを始めるにあたってその悪癖をなるべく改善したいなと思っていた。家に絶対に人を上げなかったけど、それをやめて、積極的にうちでだらだら飲もうよと誘ったりとかしていた。付き合ってた人が—まるで化粧水を当たり前のように置いていく女みたいに—何かしらを置いていくのも、別にいいよと思っていた。別れちゃったら、捨てちゃえばいいんだし。

 

捨てなかったけれど。

 

今日まで、めんどくさいだのどうなので居座っていた、ありとあらゆるものを捨てた。

過去は消せなくても、薄まっていくかもしれないし、経験になる。ひょっとして、ようやく前を向けたのかもしれない。ひきづっていた記憶も、もうない。もう、ここに彼は帰ってこないし、ここには私も住まないのだ。私は行方をくらまし、もう彼も私まで辿り着く手がかりを失う。

はじめっから好きじゃなかったことになったのだ。

 

目があったまくらを、私は自然に無視することに成功した。