白い球体になりたい

音楽好きだし、ゲイだし、世界が終わらないことも知ってる

転&職

通勤途中の道すがら、ツバメの巣から雛が落ちて死んでいるのを見つけた。春の終わりを告げるかのような強い日差しと、熱せられたアスファルトに静かに横たわり、眠ったように動かない。すぐ上には巣から雛たちがピーチクパーチクと薄情にも親の帰りを待っている。残酷だが、さもありなん。幾多の人々が慌ただしい様子でその場を立ち去っていた。私は出勤に遅れるギリギリであったため、その場を後にした。

 

ピーチク、パーチク。

 

転職活動をしている。

転職活動を始めると一つ強烈にわかることがある。それは「自分の市場価値」だ。自分がどんな環境で、どのようにして、どれくらい働いてきたか。それが全てとなる。私の市場価値はどうだったかというとそれはお察しで、アラサー、黒電話が使えます、という感じだ。ここは竜宮城で、今私は玉手箱を開けてしまった。見渡す限りに知らない世界が広がっており、自分がいまどんなものなのか、何もわからないまま時間が過ぎていた。

あるいはここは燕の巣なのかもしれない。私は幼気な雛鳥で、まだ翼も育っていないまま飛び立とうとしているのかもしれない。私の翼の状態を確認した。その気になれば飛べてしまえるんじゃないか。無知な私はそんなことを考え、いざ巣の外を観察する。なんと広く、美しく、残酷な世界が広がっているのだろう。私ごときに、一体何ができるのだろう。私は1人の凡才として、平平凡々な人生を歩んでいきたかっただけだというのに。私はこのまま、自己実現などを放棄し、人間でなく機械として生きていきたかっただけなのに。

私は巣から身を乗り出し、さして大きくもない空へ飛び立とうと一気に___

 

ピーチク、パーチク。

 

先ほどの雛鳥に名前などなく、廃屋に設置された巣は人知れず営んでいくだろう。

そして私はまたその場面を完璧に無視し、後にするだろう。