白い球体になりたい

音楽好きだし、ゲイだし、世界が終わらないことも知ってる

58

「そう来るんじゃないかと思ってました」

 

 直属の上司に退職の意思を告げると、全てお見通しだったことがわかった。尊敬している人に別れを告げることは本当に心苦しく、涙を流さないように泣いていた。精神的にまいってる様子だったのが見て取れたので、相当心配されていたようだ。

 上司は、今後の進路を応援してくれた。私が現職で考えていたことを話したらほぼ共感しているようだった。転職を考えたことも何度かあったそう。しかし彼は生活を取り、ここまでやってきた。側からみれば仕事のできない奴がいなくなって清々すると思う。上司のポーカーフェイスからは何も読み取れなかったけど、名古屋に帰ってきたらお酒でも飲みましょうと言ってくれた。

 

さらに上の上司がやってきて、今度は穏やかでない表情で私を説教する。「今から他所に通用するエンジニアになることは厳しい」と言われた。同じ口から以前「君は他の会社でやっていけると思う?」ときかれたことを思い出し、全てのピースが当てはまった。エンジニアの道を捨てた方が賢明だという彼の主張を聞きながら、これまで働いてきたいろんな出来事を思い出していた。行くも地獄、戻るも地獄。つまり、私は地獄で生きていることの証明になってしまった。

 

大人になると、涙を流さなくても泣けることができてとても便利だ。

 

28歳の夏休みが始まった。

どこへ行ってもいいし、いくら寝てもいい。

僕は途方に暮れていた。