白い球体になりたい

音楽好きだし、ゲイだし、世界が終わらないことも知ってる

newboi

もともと、歌詞を書くのは嫌いだった。メロディやコードを考えたり、ここにこういう音を入れたらいいなとか考えを巡らすのは好きなくせして。
高校生の頃、初めて曲を作ってみようと思い立ち、とりあえずラブソング…なのかなと訳も分からず曲を作り始めた。何を思ったのか、僕は歌詞を書き始めた。さぁ何を歌う。男性から女性への想いなんてわからないけど、とりあえず登場人物をそのまま女性の描写にして…と、とりあえずな歌詞を作った。そこにメロディとコード進行、こういう展開にしよう、まぁこんな感じで、いっか。初めて作った曲は、今でも楽譜が残ってる。
高校と大学と、そのスタンスはあまり変わらなかった。むしろ、ラブソングを書くことに嫌気がさしてしまい、世の中への不平不満とか、生きていかなくちゃいけない絶望感とか、そういう気持ちが当時の私を支配していた。次第に、こう思うようになる。「もう歌詞に何かを込めるのはやめよう。どうせ全部嘘だし。別に女の子好きじゃないし。」意味のない文字列をならべて、歌詞ということにしていた。
聴く音楽も、さも孤独やら、愛やら歌っているけど、結局お前らノンケじゃん?とふんぞり返っていた。ノンケの気持ちはいつだってわからない。女の人を抱けるだなんて信じられない。別に共感したかったわけでもないが、男だからとか女だからとかそういう視点がない、孤独や葛藤を歌う曲ばかり好きになっていった。
そうしているうちにもダラダラと曲を作り続けて、音楽活動(といってもサークル内での活動ばかり)を続けていて、私は二人、大きな出会いを得た。
一人目。ともだちはいらないのギター、伊藤氏。彼はもともと小説家志望なこともあって、歌詞を考える天才だった。彼の書く歌詞は最高にナンセンスで、狂っていた。僕はさっそく、「あぁよかった!もう僕は歌詞を考えなくていい。彼が書く詞にメロディやコードをつければそれでいい。僕の役目はここだ!」と思い込み、彼とたくさん曲を作った。これが、僕の大学生活の大部分だったと思う。
二人目。大森靖子、というアーティストを初めてみたとき、こんな風に歌っていいんだと目から鱗がでた。すぐにどハマりし、音源を買いあさりYoutubeを全てチェックし、ラジオなども欠かさず聴いて、それはそれははまっていた。当時、僕はもう自分で歌詞を書くことをやめようと思っていた。先述した伊藤氏がすごい歌詞を書いてくれる。
だけど、バンドの空気がそんなに良くないのもわかってた。細かくは書かないけど、僕のせい。だから、もし仮に彼のモチベーションが潰えてしまったら、自分も音楽から足を洗おう。と思っていた。

大森靖子さんの歌詞はどうしても、女性目線だった。性差を感じさせる曲は苦手だったのに、彼女の書く歌詞はそれ位以上のパワーがあった。彼女の歌詞は、現実だから好きだ。いつだって現実について書かれている。現実をうまく捉えると、ファンタジーになる。そこがたまらなく上手で好きだった。でもこんなにも胸をかきむしるすごい歌詞なのに、僕は”また”歌詞が女性目線だ。と思った。

僕は男で、男が好きで、一体どの歌に入り込んで、涙を流したり、胸をかきむしったりすればいいんだろう?
待てよ。
だったら自分で作ってみたらいいじゃないか。

そう思って早速詞を殴り書いて、ピアノに向かって数十分で「人気ユーザーになったら」という曲ができた。
早速iPhoneで録音し、サウンドクラウドにあげてTwitterでつぶやいたところ、それはそれはリツイートされていった。

その後、シミズミミというブッカーに、のちに、ちかさんに見つかり、
ライブやるなら曲を書かなくては!と奮起し曲を書きためていくことに。
その過程でふと気づく。

 

歌詞を書くのがこんなにも楽しい。
自分で表現を考えるのがこんなにも楽しい。
こんなにも歌いたい感情の多いこと。
かつ江をやり始めて、「ノンケぶって音楽に触れている状態が苦しかったのだ」と気づきました。

**

あれからかれこれ数年経って、アルバムを作りました。

僕は正直、配信という方法が普及した今、CDの容量に収まる曲数(であろう)をまとめてリリースすること自体にあまり意味を感じません。ですが、あえて「アルバム」という形でリリースしようと思ったのは、そこに意味を持たせることにチャレンジしたかったからです。アルバムという形態を、いかにして作品となすか。四苦八苦しましたが、自分の中では上出来です。こないだ「軽い気持ちで聴けない」って言われたんですが、これ以上の褒め言葉ねえなって思いました。
僕があの時聴きたかったアルバムが、今更ですが、できたんだと思います。
あのときの僕のような人がもしいたとしたら、そういう人に絶対届いて欲しいアルバムです。

あのときの僕に、言ってやりますよ。
お前はホモを歌っていて、友達もまぁまぁいるぞって。

新しい男の子 by かつ江 on Spotifyhttps://open.spotify.com/album/2sAsq4FYKXH4l2TsUtW2Gf

とりあえず、ここまで。