白い球体になりたい

音楽好きだし、ゲイだし、世界が終わらないことも知ってる

東京と私

新幹線の車窓を流れる、寝静まった街並を眺めていると、ふと目のピントがズレて、27歳になった私の顔が映し出された。

隣の人が音漏れさせているメタル・ミュージックと、新幹線の低周波音が不思議な共鳴を起こし、私は東京を離れる感傷に浸りきっていた。

 

東京はすぐに見えなくなり、通過する駅表示だけが私の現在地を教えてくれる。真っ暗な車窓は地下鉄さながらの味気なさで、申し訳程度に付いた街灯が、大晦日独特の静寂にスポットをあてていた。
 
東京は不思議だ。
ふと、急に名古屋に帰りたくなる。
こんなに東京は素晴らしくて、全てが絵になる街であるというのに、
まるで電池が切れてしまったかのように、
名古屋に帰りたくなってしまう。
東京という街に、入り込めない。
こんなに恐ろしいことがあってはならない。
 
疲れはてた一家の寝息が、メタルミュージックとシンフォニーを奏でる。私は耐え切れず、東京の唄を歌う。全て、跡形もなく新幹線の轟音に飲み込まれてしまった。
 

GOGO

GOGOの人の自撮りツイートに、イイネが287件ついていることを確認した。
僕は暖房の温度を1℃上げる。
さらにそのツイートにリプライが250件近くついていることを目撃し、その直後ツイートがふっと消えた。
明日はクリスマスイブで、過去最大規模まで荒れた部屋に一人で帰ってくるだろう。
ツイートが消えたのは、新しいリプライがついて、上昇したからだった。
僕がフォローしている、それまたGOGOの人からのリプライ。
 
僕のやることはいつだって変わらない。
ジムに行って、計画的な食事を摂り、確かな睡眠時間を確保すること。
勉強なんかその次でいい。
生きていくために必要なのは、ピアノの上手さじゃないし、もしかして、仕事の給料ですらない。
 
エロスとは一体化したいという願望であると、昔聞いたことがある。
一体化し、そのものになる。
男性は女性と一体化し、女性は男性と一体化する。
それぞれ、女性か男性かになるために、だ。
子供を作るためじゃない。
子供を作らせるためのシステムに過ぎない。
ときには、男性と男性も一体化するだろう。
それは男性になるために、じゃない。
では何故?
正直、僕にもよくわからない。
 
お茶を濁して、濁されて、生きていく。
イイネを288件にした。
 

僕が名古屋に居る理由

愛知県名古屋市
総人口およそ230万人。この値は、東京都23区の4分の1程度である。
主要な産業は製造業で、トヨタ自動車関係の会社があふれている。
僕はこの街で生まれて育った。
 
就職活動していたころ、僕には好きだった人がいた。
その人と一緒に暮らせるならまぁ地元で就職するのが吉かなと思い、そうした。
その人とは結局直後に別れて、僕は名古屋で働いている。
安直な人生の選び方をした自分への罰なんだと思いながら。
 
人生なんてどうとでもなる、と思っている節がある。
いざとなれば仕事なんてほっぽりだして、東京だろうがニューヨークだろうが行ってしまえばいい。
その場その場でどうにかして生きていこう。
そこでどうしようもできなくなったらあきらめて、別の手段を考えよう。
僕はそういう行き当たりばったりな人間だ。
 
現状、名古屋に27年住んで、この街に不満は特にない。
東京での楽しそうな暮らしがSNSを通じて観察できるけど、
結局、その楽しそうな生活というのはヒエラルキー由来のものだ。
東京という土地柄で享受できる部分はあるだろうが、一部であると思うし、
何もそういうパーティーピーポーになりたいと思ってるわけではない。
僕はどこか息抜きが出来る場所と、美味しいご飯が食べられる場所と、
歩いてて楽しい街があればそれでいい。
 
それに、東京という街はとても近いのだ。
一万円と90分さえ支払えば、新幹線という便利な電車が東京を僕にくれる。
行きたい時にいつでも行ける。なんなら仕事帰りにふらっとでもね。
いつでもいけるからこそ、行こう行こうと強迫観念にさらされることも少ない。
おそらく大体の名古屋人が地元に残る(=東京へ上京しない)のは、
「東京なんていつでもいける」とわかっているからなのだと思う。
嘘みたいに高い飛行機に乗らなくていいし、
駅から車で1時間以上走って実家に向かったりもしない。
ここはそういう構造の街ではないのだ。
 
ただ、
 
現状名古屋でこのまま40年、今の会社で働いたあと、
例えば定年退職して自分の部屋に帰ってきたあと、
僕はその一瞬の最大瞬間風速で吹きすさぶ孤独に耐え切れる自信がない。
おそらくその場で塵となって消えてしまうだろう。
それが「東京」で解決できるか?答えはノーだ。
東京という魔法の言葉でも、孤独死はきっと解決できない。
しかし、名古屋という呪文よりは可能性があるんじゃないか、という気がしてならない。
新しいことが始まるのが必ず「東京」からなのは、僕も重々わかっているから。
そんな些細な希望にすがりたくて、
そう遠くない未来、私は上京するつもりでいる。
 
僕が名古屋にいる理由はたくさんある。
友達だって名古屋に残っていること、
「東京なんていつでも行けるさ」と、たかをくくっていること、
この街で力を貯めてからじゃないと、東京でろくな生活を送れないと思っていること。
ゲイセクシャルという特殊な世界で、いかに強かに生き延びるのか、
僕は今この街で、ああでもないこうでもないと考えながら、上京の機会を模索している。